インゴルフ・ヴンダーは1985年に生まれ、4歳でヴァイオリンを始めた。すでにヴァイオリンで高い水準の演奏技術をもっていた14歳のとき、ホルスト・マテウスがヴンダーのピアノの才能を発見し、リンツ音楽院にてマテウス教授のもとでピアノに集中的に取り組むこととなった。ヴンダーはシュナーベル、フリードマン、ルービンシュタイン、ホロヴィッツといった偉大なアーティストから大きな影響を受けながら、研鑽を積んだ。
ピアノに転向してからわずか数ヶ月で、ヴンダーは第7回コルテミリア国際音楽コンクールにおいて1位を獲得した。そしてまもなく、トリノで行われた第16回ヨーロッパ音楽コンクール、ハンブルクでの第63回スタインウェイコンクールなど、複数のコンクールにおいて1位となった。その後、インゴルフ・ヴンダーはウィーンのコンツェルトハウスにおいてデビューを果たし、リストのメフィスト・ワルツ、ドビュッシーのプレリュードを弾いた。2001年には16歳で、第36回国際リストコンクール(ハンガリー)にてリスト賞を受賞。2003年にはエマニュエル・クリヴィヌから招待を受け、シャンゼリゼ劇場でのフランス国立管弦楽団の演奏会においてプロコフィエフのピアノ協奏曲第3番を演奏した。2008年から、ヴンダーは1955年のショパン・コンクール覇者であるアダム・ハラシェヴィッチのもとで学んだ。2010年に行われたショパン国際ピアノコンクールにおいて第2位および、特別賞を受賞したことは世界の熱心な聴衆を虜にした。その後、演奏活動を続けながら、指揮の勉強や音楽の裾野を広げる活動も開始し、2012年にはディプロマを得た。
録音はドイツ・グラモフォンで行っており、「ショパン リサイタル」「インゴルフ・ヴンダー 300」などのCDをリリース。ヴラディーミル・アシュケナージ指揮/フィルハーモニア管弦楽団、サンクト・ペテルブルク・フィル、ウッヂ・フィル、ユーリ・バシュメット指揮/モスクワ・ソロイスツ、クリストファー・ウォーレン=グリーン指揮ロンドン室内管弦楽団との共演のほか、ウィーン楽友協会、カーネギーホール、ベルリン・フィルハーモニーをはじめ、ウィグモア・ホール、パリ・ロワイヤル劇場、ワルシャワ・フィルハーモニー、プラハ・ルドルフィヌム、マリインスキー劇場、サントリーホール、など、ヨーロッパ、アジア、南北アメリカ大陸での演奏を行ってきている。
日本では、2011年1月のアントニー・ヴィット指揮/ワルシャワ・フィルのツアーソリストの他、2012年4月には篠崎靖男指揮/京都市交響楽団と共演し、ショパンのピアノ協奏曲を、11月にはユベール・スダーン指揮/大阪フィルハーモニー交響楽団、2013年1月に秋山和慶指揮/東京交響楽団、2月には下野竜也指揮/NHK交響楽団との共演を果たし、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番を披露した。また、2013年5月には、大野和士指揮/ウィーン交響楽団の日本ツアーのソリストを努め、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番を演奏している。リサイタルとしては2012年4月に紀尾井ホール、フィリアホール、いずみホール、11月から12月にかけて武蔵野市民文化会館、京都・青山音楽記念館、みやまコンセールなどで演奏した。
2014年、ヴラディーミル・アシュケナージ指揮サンクト・ペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団とCD「チャイコフスキー&ショパン:ピアノ協奏曲第1番」をドイツ・グラモフォンよりリリース。2015年にはヤツェク・カプスシック指揮ワルシャワ・フィルハーモニー管弦楽団と「ショパン&リストinワルシャワ」リリースした。同CDには、アルフレッド・コルトーがオーケストレーションを施し、インゴルフ・ヴンダーが編集したたショパンの協奏曲第2番に加え、インゴルフ・ヴンダーによるオーケストレーションを行った演奏会用アレグロなどが含まれている。
2017年、インゴルフ・ヴンダーは妻のポリーナとともにアパッシオ(Appassio.com)を設立した。アパッシオは世界初の、あらゆる年代の音楽教師、生徒、芸術愛好家、保護者に向けた、芸術教育支援を目的としたリアルタイム・オンライン音楽教育ポートフォリオである。また、2018年にはカスプシック指揮ワルシャワ・フィルの韓国ツアーのソリストのほか、セルゲイ・スムバチャン指揮マルタ・フィルのヨーロッパ・ツアーにおいてベルリン・フィルハーモニーを含む主要なコンサートホールに登場した。2018年より弾き振り、2019年より指揮活動も開始し、アルトゥール・ルービンシュタイン・フィルなどと共演している。2019年にはTEDに登壇し、音楽評価についてのスピーチを行い好評を博した。その他、国際連合と連携し、芸術・音楽教育の普及に向けた活動も展開している。
リスクのあるチャレンジにも情熱を持って立ち向かうことが、ヴンダーのアーティストとしての姿勢である。